ARCHITECT MESSAGE

遠藤 謙一良

遠藤建築アトリエ

https://www.endo-aa.net/

森のインスピレーション

木はその地域の気候や環境の影響を受けながら、長い歳月をかけて育まれるものです。そういう材を使って、生命体の一部として建築をつくることは、日本においてはごく自然で、身近なことのように思います。

私がその思いを強くしたのは、やはりこのアトリエを建てたときでしょうか。
北海道の在来種であるエゾマツでアトリエを建てたいと考えていた私は、2年かけてようやく富良野にある東大演習林から再材整備で出荷された数十本のエゾマツにたどり着きました。せっかくだからエゾマツが育った森を見てみたいと、富良野を訪れ、東大の先生に森を案内していただきました。そこで目にしたエゾマツの原木は、想像したよりも遥かに太く、たくましいものでした。こんなにも大きな原木から材を取ることを改めて知り、妙な安心感に満たされました。私はそのとき、昔の大工さんに近づけたような気がしました。木を育んできた森に立ち、その木が建築に変わることを体感できた瞬間でした。

富良野の森へ一歩踏み込んだ経験は、われわれもまた、生産に近いところに関わることが大切であると気づかせてくれました。

目利きになりたい

たとえばお寿司屋さんの大将は、旬や海の状況、流通量を総合的に判断しながら魚を仕入れますが、当然そのときに「目利き」、いわゆる素材を見る目が必要になってきます。
建築家もまた、木においてそういう感覚を持つことが大事なんじゃないかと思います。だからここ数年は、機会があれば道内外を問わず木材の生産や流通に関わる現場に足を運んでいます。実際にその現場へ行き、どういう材が、どのような状況で市場取引されているのか。原木と材の状態を見て相場観を身につけ、木を身近に感じながら自らのクリエイティブにどう展開できるのかを常に考えています。

日本は湿潤気候に属し、多種多様な植物に恵まれています。歴史をさかのぼっても、日本人は木を祀り、木で家を建て、木を道具として用い、生活のさまざまな場面で木に親しんできました。
気候は、衣食住はもちろん、文化、宗教、国家形成にまで深く影響を与えます。それほどの力を持つ気候に対して、建築はいかに抗うことなく、素直に適合しうるか。それをかなえるのに木は非常に優秀な素材であると、その深遠な世界に踏み込めば踏み込むほど確信するのです。

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