素の力
たとえば石という素材があります。不思議なことに石を貼った床は、そこに立つだけで厚さが分かります。これは相当厚いなとか、重厚に見えるけれど薄いぞとか。私たちは量らなくても質量を感じます。同じように木も、たとえ表面にどんなに厚く塗料を重ねてもそのぬくもりが伝わります。そして木にしか出せない表情を醸し出します。
これは、素材の内に秘められた力のようなものじゃないかという気がしています。鉄やアルミニウムも同じですよね。やっぱり力を持っている。プラスチックはどうでしょう? 安くて性能の良い合成樹脂は建築の現場でも幅広く使われています。
でも、素材の力という意味では、木や石には劣ります。
その違いは、「素」であるかどうかだと思うんです。合成樹脂も地球から取れたものには違いないけれど、それを直接使うわけではありません。変幻自在で使い勝手は良くても、内なる力を感じることはない。石油製品の性(さが)なのかもしれません。
本物は未来へ継がれる
現代は木の時代です。建築の世界では木にスポットライトが当てられ、木造建築のビルが注目を集めています。サスティナビリティを追求すること自体は良いことですし、現代建築の主要なテーマだと思います。ただし、木を使えばなんでもサスティナブルで、SDGsだという風潮には、少し違和感を覚えます。たとえば地球の裏側から木を運んでくることはSDGsでしょうか。メンテナンスが行き届かずに外壁の木が腐ってしまったら、それはサスティナブルでしょうか。
ヨーロッパには数百年、1000年以上も持っている石造りの建築があります。木を使わなくてもサスティナブルです。
木には強みも弱みもあります。樹種によってもそれは違うし、構造や使い方、置かれる環境によってもそれは変わります。
素材そのものの力、その使い方、それに「使い続けたい」「残していきたい」という思いが合わさって、はじめてサスティナブルな建築が生まれるんじゃないかと思います。
それでは木製サッシはどうでしょう?
木製サッシは、ブームに乗って昨日・今日生まれたものではなく、ずっと前から寒冷地を中心に使われてきました。断熱性が高く、結露しにくいという圧倒的な性能面での強みがあるからこそ、親しまれてきたのでしょう。意匠性が高く、メンテナンス次第では長寿命です。強いニーズがある木製サッシはこれからも使われ続けるのだろうと思います。使う人の思いとともに、ブレることなく。

